提言(農業・漁業・林業) タイトル

はじめに

米国発のサブプライム問題に於ける金融破たんが全世界を震撼させ、バブル崩壊時でさえこれほどまで急速に不況の高波が日本を襲ったことはない。  当初は、日本が受ける影響は軽微だと楽観視するむきもあったが、発生地の米国にも負けず劣らずの影響を受け、未曾有の経済危機に直面している。 これは、日本経済が外需に依存しているからである。輸出相手国の景気が悪くなれば、当然輸入は減り、日本の輸出産業は大きな打撃を受ける。自動車関連にしろ電気製品関連にしろ、日本の有力企業が受けたダメージは予想外に大きかった。

いま日本に求められているのは、外需型の経済から、内需形の経済に転換することである。簡単にいえば内需拡大である。 その内需を増やすには、1次産業といわれる農業、林業、漁業を活性化させることである。

まず農業であるが、なにしろ日本の自給率は40%であり(農林水産省、平成19年度、カロリーベース)先進諸国の中でも際立って低い。 これでは、万が一、地球規模で食糧不足になった時、多くの日本人が餓えるのは目に見えている。いま食料を輸出している国でも、農作物が不作になったら、自国の食糧確保を優先するのは当たり前だ。近年の温暖化にともなう環境の変化をみるにつけ、その可能性は大いにありうる。 また、長い目で見れば、中国やインド、アフリカなどでの人口が急増し、いわゆる人口爆発が起き、食料の生産が追いつかなくなることも想定される。 このままでは、食料を他国に頼っている日本は、そう遠くない将来、国民が餓える時がやってくる。 農業は、内需拡大の前に、国の安全保障、国民を飢えから守るためにも、最重要産業として位置づけ、国を挙げて育てなければならない。

日本の農業自給率の目標として、80%を掲げることを提案する。このレベルを保てれば、餓えることはない。万が一の場合になっても、悪くても飢え死にする国民が出ることはない。 この目標に向かって、国家を挙げて知恵を絞り、政策を打ち立てる必要がある。 いま日本の農村は高齢化し、農地は荒れるにまかされている。これでは日本の農業に未来はない。 若者が農業を目指したくなるようなシステム、制度をいまこそ整え、若者を農業に迎え入れる努力を惜しまずにすることが国の緊急課題である。いまなら、高齢化したとはいえ、伝統的な農法を伝えることは可能だし、また新しい農法と併せて、生産性の高い農業を産業として興すことは可能である。 これまでは、作った作物は農協を通じて販売していたが、これを生産地で加工し、付加価値を高めて提供する。農業という1次産業に、加工という2次産業、そして、その加工品を販売する3次産業といった一連のシステムを作りあげることで、高い生産性が上げられる。 これを実現するには、知恵を出し合い、いろいろな工夫は必要だが、農業は可能性を大いに秘めた産業である、と理解すべきだ。

日本で生産された農作物は海外では人気があるという。更に自給率を上げることで農業を輸出産業にすることもできる。それにはやはり、作物をそのまま売るのではなく、加工して付加価値をつけることで、より高く売れる。 農業を核にした産業が各地で興れば、ゆうに500万人は就労できる。まさに国の基幹産業になりうるのが農業である。 農業を興せば、公共事業として、土壌の改良や田畑の整備で関連する土木産業も活性化するし、同時に農業従事者の受け入れ態勢を整え、生活に必要なコミュニティーの場として、環境整備(公共施設、病院、学校、住宅等々)すれば、農業の就労人口は増え、農村は一つのコンパクトシティとして機能するようになり、建築業も活性化し、又農機具を製造するメーカーも潤うはずだ。 コンパクトシティは限界集落の人々を収容し効率の良い街造りが出来、集落は農作業用の倉庫や農産物の加工場に出来る。 

農業を活性化させることは、予想外に大きな経済効果をもたらすことが期待でき、今後国家の重要課題(中国などの経済成長にともない、日本国土の山林などを買い漁り、水資源はもとより材木まで伐採され持って行かれる、憂慮すべき問題である)となる水資源を守ることになるのだ。農業こそ国づくりの基盤といえる。 いま、派遣切りやネットカフェ難民などの仕事のない人や、生活保護を受けている人は少なくない。地方には廃校や遊休の施設が有るはず。そこを改造して居住用に有効利用すれば、生活の質は向上し費用も少なくてすむ。 農作業には様々な仕事があるが、多少体が不自由な人でも軽作業なら就労できる。そういった労働・就労問題をも解決できる可能性もある。 それには、どうしたら若者が農業に従業してもらえるか、農業に従業して十分に満足した生活が送れるか、そんなシステム、制度を構築することが求められている。

しかし残念ながらいまの国の政策をみると、減反政策に代表されるように、その場しのぎの政策でしかない。しかもその政策がコロコロ変わるものだから、農業従事者は困惑している。これでは真剣に農業をしようとする人は農業から離れるばかりだ。 いまこそ国家100年の計を見据えた、本格的、抜本的な農業政策が求められている。

漁業にしても、世界の人口が増え、他国の人もサシミなどを好んで食べるようになると、海外で漁獲した魚が日本人の口に入りにくくなる。すでにマグロは漁獲量の割り当てが減り、トロは高値の花になっている。 海や川に泳いでいる魚を獲る、人口が少ない時代ならそれでよかったが、地球規模での人口が急激に増えているいま、自然に任せた旧来の漁業では、十分に満足な量を確保できなくなるのは目に見えている。 このようなことを考えると、これからの漁業は養殖が重要になってくる。安定した漁獲が見込め、食料の自給率の面でも養殖は必要である。 すでに日本の漁業は養殖に力を入れているが、さらに力を入れて対応する必要がある。 いま養殖というと穏やかな海辺で行なわれる例が多いが、これからの養殖は海のないところで行なう、内陸型の養殖が産業として待望される。 この内陸型の養殖は、設備など費用はかかるが、海で行なう養殖と違い安定した生産量が見込めるなどメリットが大きい。また設備の整備にともなう建築業への派生も期待できる。 内陸型養殖は、技術的には難しい面もあるが、将来の食料の安定供給の面では必須の産業になるはずであり、これも内需拡大の一つの事業になりうる。

林業は、内需に与える影響は農業ほど大きくはないが、水量豊かな森林資源は国全体の環境を考えると極めて重要な産業である。 林業を活性化することは、いま世界的に問題になっている、地球の温暖化防止にも有用であるばかりでなく、健全な林業は漁業にもいい影響を与えることは、過去のデータが物語っている。 今や山林は荒れ果てたまま放置され、水資源の枯渇を招き、集中豪雨による土砂災害の危険にさらされ、洪水による被害も多く、農業にも多大な損出を与えている。 今こそ10年20年ではなく、100年200年のスパンで考える国の政策として、自然環境の保持に大きく寄与する林業を育成すべきである。

地方の時代、といわれて久しい。ところが地方の時代といわれながらも、疲弊している地方、農村ばかりである。これでは、国の将来はない。  若い人が、農村や漁村で働き、そこで豊かな生活を送れるようになれば、国は活性化する。内需は大いに拡大するし、将来の懸念材料である食料の安全保障の課題も解決できる。いまこそ、内需を拡大する農業をはじめとする1次産業の活性化をはかるべきである。

おわりに

国が地球温暖化、石油資源枯渇に対する一環として行う、日本版グリーン・ニューディール(環境とエネルギー)政策は、アメリカと違って国土的に難題が多く、太陽光発電、風力発電、地熱発電等は、自然エネルギーの創出として取り組まなければならない事業ではあるが、費用対効果、つまり設備投資、耐久年数などを考えると疑問が残る。従って、積極的に財政出動させても、景気浮揚、雇用創出の面で余り期待はもてない。 しかし乍ら、世界は温室ガスの削減に力を入れている今、地球温暖化防止に貢献する省エネや再生可能なエネルギーについて、費用対効果だけで論じることは危険であり問題解決には時間がかかる。

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